「深圳 ロボット」で調べると、ニュースの断片か視察ツアーの案内が並びます。何がどこにあって、どういう順序でモノと情報が動いているのか、構造として説明したものはあまり見当たりません。
この記事は、Orbohのメンバーが2025年11月に深圳を訪問して確認した内容と、その後の公開情報を合わせて、産業の構造として整理したものです。訪問そのものの一人称の記録は上田による視察レポートにあります。本稿はそちらと重ならないよう、産業の側から書いています。
深圳がロボット都市になった構造
深圳の強みは、特定の技術を持っていることではありません。部品供給・試作・量産・販売が地理的に近接していて、開発のサイクルが短く回ることです。
設計を変更して、部品を調達し、試作して、検証する。この一周が日単位で回ります。同じことを日本や米国でやると、部品の入手待ちだけで週から月の単位になります。1回あたりの差は小さくても、開発期間全体では大きな差になります。
- 電子部品の現物在庫が市中にあり、当日から翌日で手に入る
- 試作を請ける工場が同一都市圏に密集している
- 完成品メーカーとサプライヤーが対面で仕様を詰められる距離にある
深圳のヒューマノイド関連メーカーを4つのレイヤーで捉える
「ヒューマノイドメーカー」と一括りにされがちですが、現地では役割がはっきり分かれています。どの層の話をしているのかを分けないと、企業名を並べても実態がつかめません。
| レイヤー | 担っていること | 例 |
|---|---|---|
| 計算基盤 | SoC・推論チップ・開発ボード・SDK。ロボットの制御と推論を担う部分 | D-Robotics(地瓜機器人)ほか |
| 完成品メーカー | ヒューマノイド・四足歩行・サービスロボットの設計と組み立て | Pudu Robotics ほか |
| コア部品 | アクチュエータ・減速機・センサ・電源・電子部品 | 華強北および周辺のサプライヤー |
| 実証と流通 | 展示・販売・修理・部品供給と、そこから戻る使用データ | ロボット6S店(龍崗区) |
計算基盤の例として、D-Robotics(地瓜機器人)は2024年5月に車載半導体のHorizon Robotics(地平線)から独立した企業です。ロボット本体は作らず、チップ・アルゴリズム・開発プラットフォームを供給しています。開発キットのRDKシリーズを展開しており、RDK S100は100TOPSの推論性能を掲げています。顧客はロボット関連で400社を超えるとされています。
重要なのは、この分業が成立していることです。1社がチップから機体まで全部を抱える必要がないため、参入コストが下がり、プレイヤーの数が増えます。プレイヤーが増えると部品の量が出て、さらに安くなります。深圳で起きているのはこの循環です。
China Hi-Tech Fair(CHTF)— 深圳のロボット展示会で見える産業の厚み
第27回China Hi-Tech Fair(中国国際ハイテク成果交易会)は2025年11月に深圳で開催され、2,000社を超える企業・研究機関が出展しました。成約規模は1,700億人民元と発表されています。
こうした展示会の価値は、新製品を見ることよりも、レイヤーごとに何社が並んでいるかを一度に確認できる点にあります。チップ、アクチュエータ、完成品、応用サービスが、それぞれ十数社から数十社の単位で並びます。1社ずつ調べていては見えない、層の厚みが分かります。
日本から見ると完成品メーカーの名前が先に来ますが(よく挙がるUnitreeは杭州の企業です)、現地で密度を感じるのは部品と計算基盤の層でした。
ロボット「6S店」— 販売・修理・部品供給を一体化した流通形態
2025年7月28日、深圳市龍崗区のロボットシアターで、世界初とされるロボットの「6S店」が開業しました。自動車の4S店(販売・部品・アフターサービス・情報フィードバック)を拡張した呼称とされています。
構成が特徴的です。1階に部品サプライヤーが入り、上階に完成品メーカーが入る。研究開発から実証、販売、そして使用データの回収までを一箇所で閉じる形になっています。開所時点で産業チェーンの上下流200社超が進出の意向を示し、うちヒューマノイド・サービスロボット企業が50社近くを占めるとされています。
華強北でのロボット部品調達 — 何が速いのか
華強北は電子部品の集積地です。ロボット専門の街区ではありませんが、深圳での開発速度を実際に決めているのはこの層です。
速さの理由は価格ではなく、現物があることです。データシートを見て発注して入荷を待つのではなく、現物を手に取って、その日のうちに試作に載せられます。
- 型番が決まっていなくても、近い仕様のものを複数買って比較できる
- 1個単位で買える
- 動かなかったときの入れ替えが即日で済む
一方で、品質のばらつきや真贋の判断は自分でやることになります。試作の段階では速さが効きますが、量産に入る前に部品を固定して供給元を一本化する工程が必ず必要です。ここを飛ばすと、後で歩留まりの問題として戻ってきます。
量産は深圳市内だけでは完結しない
量産の実体を追うと、市の境界の外に出ます。たとえば楽聚機器人(Leju Robotics)は東方精工科技と組み、佛山にヒューマノイドの生産ラインを構築しています。30分に1台のペースで本体がラインオフし、年産約1万台の規模とされています。
深圳=開発と調達、周辺都市=量産、という珠江デルタ全体での役割分担で見たほうが実態に近くなります。「深圳のロボット産業」を市域で切ると、量産の部分を見落とします。
日本のロボット開発者にとって何が意味を持つか
現地を見て、判断が変わった点は3つあります。
- ハードウェアの調達難易度は下がり続けている。ヒューマノイド本体も計算基盤も、買って手元で動かせる価格帯に入った
- 差がつくのは本体ではなく、それを特定の現場で動かす部分。深圳のエコシステムは「動く機体」までを速く安く供給するが、現場で使える状態にする工程はそこに含まれていない
- 一度現地を見ると、何が既製品で調達できて、何を自分で作る必要があるのかの線引きが変わる。この線引きを間違えると、既に売っているものを再発明することになる
買えることと、現場で動くことは別
Orbohが事業として置いているのはこの差分です。ヒューマノイドのハードウェア、AIモデル、ロボットOSは市場に揃いつつありますが、組み合わせただけでは現場では動きません。現場ごとにレイアウトも業務フローもエッジケースも違い、1台ずつ現場で仕上げる必要があります。
私たちはエンジニアが現場に入り、タスクを絞り、ワークフローを固定して実装します。深圳で速く安く調達できるようになったのは、あくまでその前段の部分です。
出典
- 第27回China Hi-Tech Fair(2025年11月・深圳)開催報告
- 新華社ほか報道「深圳市龍崗区に世界初のロボット6S店」(2025年7月28日)
- 36Kr Japan「D-Robotics」関連記事、および同社の製品情報
- Orbohメンバーによる深圳訪問時の確認内容(2025年11月)
